対談
医師×医師兼弁護士×弁護士
#02
2024年10月10日

医事紛争の解決は「対話」が重要。
医師と弁護士、それぞれの動き方と考え方の違い

現役の医師と弁護士によるスペシャル対談の第2話は、「医事紛争における双方の認識」というテーマでお送りします。

患者さんから「医師の医療ミスではないか」と相談を受けた弁護士は、まずは何をするのか、そしてどう考えるのか、医師と弁護士で確認し合います。

それぞれの立場にあるからこその考え方の違いは、見逃せません。

#02 医事紛争の解決は「対話」が重要。医師と弁護士、それぞれの動き方と考え方の違い
医療機関側のカルテ開示。記録を見たときに弁護士が思うこと

医療機関側のカルテ開示。
記録を見たときに弁護士が思うこと

鈴木先生
鈴木先生

医師の先生方に質問です。患者さん側から「お医者さんのミスだと思うんです」という相談を受けた弁護士は、最初にどういう行動をとると思いますか?

たとえば、1回目の座談会で例題として挙げた「おじいちゃんが造影剤の説明を全く受けずに投与されて亡くなった。本当に許せない。病院を訴えたいんです」という話では、どうしていくでしょうか?

市川先生
市川先生

そうですね……、たとえばカルテの開示請求に備えて、時系列でそれまでの出来事を並べて、実際に同意書を取ったのかとか、説明があったのかどうかを確認すると思います。あとから事務的に確認できることは、すべて開示。

大塚先生
大塚先生

カルテに加えて、看護記録、採血結果、画像、読影結果など開示できる可能性があるものはすべて請求すると思いますね。

中邨先生
中邨先生

とりあえず、弁護士は全開示を請求するだろう、と思う?

市川先生
市川先生

そうですね。

廣吉先生
廣吉先生

私もそう思います。同意書があるかどうかも含め、説明したかどうかについてもカルテで確認して、そのあと実際にアレルギーが起こってから、医師がどのような対応をしたのかについて、カルテ開示を求めると思います。

鈴木先生
鈴木先生

やはりそう考えるのですね。

大塚先生
大塚先生

違うのでしょうか?

市川先生
市川先生

医師は、それを改ざんしようと試みることがよくありますよね。紙カルテとかだと。

鈴木先生
鈴木先生

カルテの開示請求が来たときに、もし自分が書いたところで「まずいかな」と思う箇所があったら、どうします?

大塚先生
大塚先生

「まずいかな」の部分の医学的な妥当性等について、まずは同僚や上司と相談するかと思います。

市川先生
市川先生

スペースがあれば……追記したいけど(笑)今は電子カルテだからね。

廣吉先生
廣吉先生

電子カルテは毎回、修正した時間も含めてデータとして残るようになったので、たとえば一度書いて消して、また新しいことを書いたとしても、その時刻ごとにちゃんと署名がついて残るので、ちょっとどうしようもないですよね。

大塚先生
大塚先生

電子カルテによってだいぶ変わりましたよね。

鈴木先生
鈴木先生

あまり医療訴訟の経験がない弁護士が案件を受任したとして、医師から開示されたカルテをパッと開いた瞬間、(感覚的に)99%の弁護士はまず何を考えると思いますか?感じることでもいいです。廣吉医師、先ほど、なんて言いましたか?

廣吉先生
廣吉先生

同意書が取れているかどうか、説明をしたかどうか、あと、何が起こったかについて、看護師や医師の記録を確認する。

鈴木先生
鈴木先生

ですよね。では、弁護士の先生に聞いてみましょうか。浅野先生、どうですか?

浅野先生
浅野先生

弁護士は多分、「書いてないことはなかったんだ」と考えると思いますね。

一同
一同

あ~!

鈴木先生
鈴木先生

さすが浅野先生!そのとおりです。「書いていないことはやっていなかった」と考えるのですが、書いてある部分については、そもそも、何が書いてあるかわからない場合も多いです。

市川先生
市川先生

医師とは職業が違いますしね。

医事紛争の場で、「対話を大事にしていく」ということ

医事紛争の場で、「対話を大事にしていく」ということ

鈴木先生
鈴木先生

電子カルテになったから、文字が読めないということはだいぶなくなったんですけど、中身が理解できない。次の過程で弁護士はどうするかというと……太期先生、どうしますか?

太期先生
太期先生

医師や医療のことに詳しい人に質問をする。

鈴木先生
鈴木先生

そうですね、病院に対して質問をしたい。質問の仕方としては大きく二つありますよね。書面で聞くか、もしくは直接お会いして、面談を求めるか。

さあ、弁護士から書面を求めて「いろいろ聞きたいことがあるんですけど」って来た場合、医師としては書面で回答したいですか?それとも直接話したいですか?

大塚先生
大塚先生

どちらがよいのか、今ぜひ、こちらの弁護士の先生方に聞いておきたいです。

太期先生
一同

(笑)

市川先生
市川先生

そんな目に遭わないように、医師は日々頑張っている感じなんですけどね。でも、基本は書面の方が楽ですね。対面だとボロが出る可能性あるから、書面で時間をとって回答を書きたい。

鈴木先生
鈴木先生

まず、弁護士は最初から質問してこないですよ。「ちょっといろいろお尋ねしたいことがあるんですが、いかがでしょうか」と確認するんです。

中邨先生
中邨先生

そう。いきなり質問をぶつけるなんてことは、しないですね。「お尋ねしたいことがあります」と連絡があったときに、医師の先生方はどうしますか?

大塚先生
大塚先生

その段階で、詳しい方にベストな方法について相談したいですね。

鈴木先生
鈴木先生

弁護士に相談する?

大塚先生
大塚先生

相談したいですね。医療に詳しい弁護士さんであれば、ありがたいですね。

廣吉先生
廣吉先生

ケース・バイ・ケースですけれども、その病院の安全委員会の先生に相談をしたり、顧問弁護士に相談したりしてどうするかを決めます。

鈴木先生
鈴木先生

はい。では、弁護士の先生方、一般的な医療機関側の顧問弁護士として、病院からそういう相談されたら、まず何を思いますか?医師会の会員(医師)から、保険会社の紹介で相談がありましたと。

青木先生
青木先生

「書面で回答」と答えますね。あとは、基本的にそういう医師会側から相談を受ける弁護士は、必ずしも医療の知識が十分にあるとは限りません。医療の知識がなくても医療機関側が全部用意してくれるので。

大体、患者さん側からの質問が的確だったらいいんですけど、的確じゃなく総花的に質問が出てきたりした場合には、煙に巻くような回答する弁護士が多いかもしれません。

鈴木先生
鈴木先生

もっと手前の段階だと?まず相談を受けた段階ではどう思いますか?

青木先生
青木先生

「訴訟になればいいな」と考える弁護士もいるかもしれません。

大塚先生
大塚先生

訴訟になればいいと思われるのですか?

青木先生
青木先生

いやひどい話ですけど、要は訴訟になったら、弁護士報酬が訴額で決まるんです、大体ね。そうすると、任意交渉(話し合い)でお金を払うよりも、たとえば1億とか請求されたときに、「それをいくら減額すればいいか」なんて話になるということです。

医療訴訟って、他の訴訟に比べれば勝率が低いんですね。なので全員が全員じゃないと思いますけど、そういう弁護士がいるのも確かです。われわれが実際に関わってる中でも、そういう人がいることも残念ながら事実です。

鈴木先生
鈴木先生

そうなんですよね。そう表立って欲を出すようなことをする弁護士は、さすがにいないんですが……、弁護士にとっての利益誘導の方向に行ってしまっているケースは、少なからず見たことはありますね。

浅野先生
浅野先生

それは、医師にとっても患者さんにとっても不幸な話ですね。医師から見たら、患者さんとのトラブルを長期化されることによりストレスがかかりますし、患者さんは救われないし。

青木先生
青木先生

そうなのです。だからこそ、「対話」が必要なのです。医療機関側は、生じたトラブルについて厳しく見立てたうえで事件の対応を医療に詳しい弁護士に任せ、医師や医療機関としての再発予防にこそ、時間をかけるべきなのです。

これは私の著書の「弁護士のための医療法務入門」にも、何度も書かせていただいています。

太期先生
太期先生

医事紛争は、弁護士にとっても難しい問題です。青木先生がおっしゃるとおり、対話を大事にして取り組んでいくことは、必要不可欠だと思います。

中邨先生
中邨先生

われわれも本当に日々勉強ですね。医療現場をよく知る医師と対話をする。ひとつひとつ、丁寧に事案を検討していく。そうやって無益な医事紛争を減らしていって、医師や患者さんのためになるように、頑張っていきます。

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