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    2024年05月09日
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    工事代金を全額前払い後、相手方と連絡が取れなくなった場合の対処法
    監修者:萩原達也 代表弁護士(東京第一弁護士会所属)
    工事代金を全額前払い後、相手方と連絡が取れなくなった場合の対処法

    注文住宅の請負契約では、契約時・着工時・上棟時などに前払い金の支払いを行うのが一般的です。

    しかし、施主が工事代金を前払いしたにもかかわらず、工事が途中でストップしてしまい、施工業者と連絡が取れなくなってしまうこともあります。このような場合には、すでに支払った前払い金はどうなってしまうのでしょうか。

    今回は、工事代金を前払いした後に施工業者と連絡が取れなくなってしまった場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、工事代金の支払いに関する業界特有の慣習とは

建物の建築工事の契約は、法的には「請負契約」という形で行われます。請負契約では、工事が完成し、引き渡しによって初めて代金の請求が可能になりますので、工事代金の支払いは、建物の引き渡しと同時というのが民法の原則となります。

しかし、このような原則を貫くと、建築業界では、下請け業者に工事代金の支払いができず仕事を完成することができなくなってしまいます。そのため、建築業界特有の慣習として、工事代金については、契約時着工時上棟時などに分けて支払いが行われています。

各会社の支払期限や分割割合はさまざまですが、民法の原則は大きく変更されており、それに伴い、業界団体で前払い金のガイドラインも設定されています。

2、相手方が悪徳業者だった場合

前払い金のガイドラインを作成するなどの前払い金に関するトラブルを予防しようという動きもありますが、施工業者が悪徳業者だった場合には、前払い金を支払っても工事が進まないこともあります。そのような場合には、以下のような対応が必要になります。

  1. (1)6つの方法を用いて、工事代金をできるだけ取り戻す

    施工業者が悪徳業者だった場合、以下の6つの方法により、前払いした工事代金の取り戻しを試みます。

    ① 話し合い
    まずは、施工業者との話し合いにより、前払いした工事代金の返還を求めていきます。相手が話し合いに応じてくれるようであれば、返金額、返済方法、返済期限などを決めていきます。
    当事者間で合意したら、その内容を合意書にまとめることが大切です。

    ② 内容証明郵便で通知書を送付
    施工業者がなかなか話し合いに応じない場合は、配達証明付き内容証明郵便を利用して、前払い金の返還を求める書面を送付する方法もあります。

    内容証明郵便は、郵便局が、送った文書の日時や送付者・送付先、内容を証明するというサービスです。そして配達証明とは、郵便局が、文書を相手が受け取ったという証明をするサービスです。両者を組み合わせることで、送った文書の内容と、相手に文書が確かに届いたことを証明できます。しかし、文書の内容と文書が相手に届いたことが証明されるだけなので、これを送付したからといって、返済を強制する法的効力まではないことに注意が必要です。ただし、後日裁判になった場合には、前払い金の返還を求めたという証拠として利用することができます

    ③ 仮差押え
    仮差押えは、裁判所の命令により、債務者の財産を仮に差し押さえる手続きです。

    相手の財産を差し押さえるためには、裁判をして勝訴判決を得たうえで強制執行の申し立てを行わなければなりません。しかし、裁判をするには時間がかかりますので、その間に相手が財産を処分してしまうおそれがあります。

    このような事態を防ぐために、債権者の申し立てにより、裁判所が暫定的に相手の財産の処分を禁止する命令を出すことがあります。この手続きが仮差押えです。

    ④ 民事調停
    民事調停は、裁判官と調停委員が当事者間に入って話し合いを進め、トラブルの解決を図る手続きです。民事調停は、裁判のように勝敗を決めるものではなく、お互いの合意によりトラブルが解決できるか試す手続きですので、迅速かつ柔軟な解決が期待できます。

    しかし、あくまでも話し合いになりますので、相手が調停に出頭しない、調停で合意が成立しないという場合には、民事調停は不成立となります。

    ⑤ 支払督促
    支払督促とは、債権者からの申し立てにより、簡易裁判所の書記官が金銭などの支払いを命じる手続きです。書面審査のみで金銭などの支払いを命じる「支払督促」が発付されますので、裁判よりも早く手続きが進みます。

    ただし、債務者から督促異議の申し立てがあると、通常の訴訟手続きに移行しますので、支払督促を利用する際には、債務者の対応を見極めたうえで行う必要があります。

    ⑥ 裁判
    当事者同士の話し合いで解決できない問題は、最終的に裁判によって解決を図ります。裁判の結果、勝訴判決が言い渡され、相手が控訴せず、それが確定すれば、相手の財産を差し押さえて強制的に前払い金を回収することができます。
  2. (2)相手方が行方不明の場合は、非常に難しくなる

    工事代金の前払いをした施工業者と連絡が取れなくなり、行方も分からなくなってしまったという場合には、債権回収は非常に難しくなるでしょう。

    裁判には、公示送達(裁判所や市区町村の役所の前の掲示板に文書の受領を催促する書面を貼って、相手方に通知する方法)という方法がありますので、相手が行方不明であったとしても裁判を行うことは可能です。しかし、この方法を使って裁判で勝訴判決を得たとしても、行方不明になってしまった相手から債権回収を行うのは事実上困難ですので、実効性には乏しいといえるでしょう。

    そのため、相手と連絡が取れるうちに早めに債権回収に向けた対応を進めていくことが重要です。

3、相手方が倒産してしまった場合

施工業者が倒産してしまった場合には、どうすればよいのでしょうか。

  1. (1)契約の解除または履行

    施工業者が破産申立てをして、裁判所から破産手続開始決定を受けると、破産手続きを処理するために、破産管財人が選任されます。

    施工業者による建築工事が途中であり、工事完成が可能なものについては、破産管財人は、契約を履行するか解除するか、どちらかを選択することができます。施主としては、どのような対応になるかわからず不安になりますが、そのような場合には、破産管財人に解除するか履行するかの催告(相手方に返事を促すこと)を行うとよいでしょう。破産管財人から期間内に回答がなければ、契約は解除したものとみなされます。

    破産管財人が契約の履行を選択した場合には、施工業者に支払った工事代金は、そのまま前払い金として扱われます。

  2. (2)契約が解除されれば前払い金は、取り戻せるかもしれない

    破産管財人によって、請負契約が解除された場合、施主がすでに支払った前払い金は、財団債権となるため、取り戻せるかもしれません

    財団債権とは、破産手続きをせずとも、破産者の財産の中から取り戻せる債権のことです。一般的な破産債権者とは異なり、優先的に弁済を受けることできますので、前払い金を取り戻せる可能性は高くなります。

    ただし、破産者の財産が不足しているような場合には、全額の支払いを受けることはできません

  3. (3)住宅完成保証制度を利用していれば損害の補塡(ほてん)が可能

    住宅完成保証制度とは、保証会社が、請負契約を締結した施工業者が倒産してしまった場合に、施主が支払った前払い金や、工事引き継ぎで発生する追加の工事費用を、一定の限度で補填する制度です。

    この制度を利用していれば、たとえ施工業者が倒産してしまったとしても、保証会社から損害の補填を受けることが可能です。ただし、住宅完成保証制度は、すべての請負契約に適用されるわけではなく、請負契約時に保証制度に加入しておく、という条件を満たした契約のみ利用できます。施工業者の倒産が不安だという場合には、住宅完成保証制度を使える施工業者を選ぶとよいでしょう。

4、工事代金の前払い問題について、弁護士に相談するメリットとは

工事代金の前払いに関する問題が生じた場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)状況に応じて最適な解決策を提案できる

    工事代金の前払いをしたにもかかわらず、工事完了前に施工業者と連絡が取れなくなってしまった場合には、迅速に債権回収に向けた手続きを進めていく必要があります

    債権回収のために取り得る手段としてはさまざまですが、迅速に債権回収をするためには、状況に応じて適切な手段を選択することが重要です。弁護士であれば、最適な方法を選択して、迅速に対応を進めることができます。

  2. (2)代理人となることができるため、交渉を任せることができる

    前払い金の返還を求める場合には、まずは施工業者との交渉が必要です。しかし、施主と施工業者との間には、交渉力や情報力の面で圧倒的な格差がありますので、施主がおひとりで対応すると、相手にうまく言いくるめられてしまうおそれがあります。

    弁護士であれば、施主の代理人として施工業者と交渉を行うことができますので、そのようなリスクはありません。施工業者との交渉に少しでも不安があるという場合には、専門家である弁護士にお任せください。

  3. (3)法律の知識をいかして、交渉を有利に進めることができる

    住宅の建築に関するトラブルが生じた場合には、建築に関する知識だけでなく法律の知識や経験がなければ、問題を適切に解決に導くことは困難です。

    建築トラブルに関する経験豊富な弁護士であれば、知識や経験をいかして、相手との交渉を有利に進めることができます。住宅の建築トラブルが生じると、施主に生じる損害も多大な金額になりますので、被害を最小限に抑えるためにも、まずは弁護士に相談するのをおすすめします。

5、まとめ

工事代金の前払い金問題は、相手方の状況によって最適な解決策が違ってきます。状況に応じて最適な解決策を選択するためには、専門家である弁護士のアドバイスやサポートが不可欠です。

工事代金の前払い金の問題でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。

監修者情報
萩原達也 代表弁護士
萩原達也 代表弁護士
弁護士会:第一東京弁護士会
登録番号:29985
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
建築問題の解決実績を積んだ弁護士により建築訴訟問題専門チームを組成し、一級建築士と連携して迅速な問題解決に取り組みます。
建築トラブルにお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

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